「私は、強い危機感を持ってこの本を書き始めています」
という出だしから、著者の本気度が伺えるこの『教養としての投資』
iDeCoやNISAで資産形成している人、個別株を売買している人にはもちろん、投資や資産形成に興味がない人も読むべき一冊なのではと思いますので、株式投資大好きファイナンシャルプランナーがレビューするとともに今後の資産形成に活かせそうなところをピックアップしてみます。
著者が伝えたいことまとめ(個人の解釈が入ってます)
よりよく暮らすためには「投資家の思想」が必要不可欠である。
・会社に時間と労働力を搾取されて得られた対価だけでは豊かになれない。
・投資とは自分以外の時間×労働力でお金を生み出すこと。
・自分と自分以外の時間×労働力を掛け合わせていく事が豊かな生活につながる。
まず「投資家の思想」と対をなす言葉として本書に出てくるのが「労働者の思想」です。
僕たち会社員は基本的に、決められた時間に会社に行き、上司にやんややんや言われながら決められた仕事をこなし、その対価としてお給料をもらう。そんな毎日の繰り返しです。
そして「お金を稼ぐとはそういう事」だと僕らは無意識に思い込んでいます。
著者はそれ自体は否定していません。ですがこのような「労働者の思想」しか持ち合わせていない人は、この先仕事を頑張り続けても経済的に豊かになる事は難しいと指摘しています。
日本は高齢化、人口減が進む事からこの先も保険料や税金などの負担が増える一方で受け取れる年金等は減少していき、GDPや平均賃金の推移を先進諸国と比較しても、長期に渡り経済的な停滞が続いている事は明らかだからです。
更に、労働者の思想しかない人が、もし何らかの理由で働けなくなってしまったら、その人の収入は「0」になってしまいます。
でももし、あなたがケガや病気で働けなくなってしまった時、コロナショックなどの未曾有の事態で職を失ってしまった時、あなたの代わりにお金を稼いでくれる人がいたらどうですか?
投資をするという事は、そういう状態を作る事だと著者は言っています。
つまり投資をせずにただ会社で愚直に働いているだけの人は、豊かになるとかそれ以前に、むしろ自ら望んでそのようなリスクを抱えている事になるとも言えそうです。そう考えると、ある程度資産運用に回せる余裕資金がある人は投資をしない理由がありませんよね。
自分以外の時間×労働力でお金を生み出すには?
例えばテスラの株を買うという事は、テスラという会社のオーナーの一人となり、実質イーロン・マスクはあなたのために働いてくれる部下という事になります。
あなたの部下は、その会社の持つ設備や社員の能力などを最大限活用しながら社会に付加価値を生み出し、それは利益、つまりお金として積み上がっていきます。
株式投資と聞くと、日々株価が上下する中で株の売買を繰り返し利益を出す事だと思っている人が多いですが、本質的には会社が時間×労働力で生み出す価値(利益)に期待するものであり、日々様々な思惑で上下する株価はあまり気にする必要はないと著者はいいます。
とは言え、利益が出ている株式会社ならどんな企業に投資してもいい訳ではありませんし、買ったタイミング次第では一時的に含み損が出る事も往々にしてあります。
投資するべき企業の見つけ方と株の買い方
2:付加価値の高い産業
3:長期的な潮流
・この3つの要素を持っている企業の株を分散して購入し、長期間保有し続ける。
・PERなどの指標やチャートの分析はあくまで過去のデータだからあまり意味ない。
具体的な投資の指針に入ってきますが、投資すべきは上記3つの要素を満たす企業です。
例として、コカコーラやナイキ、日本企業では信越化学工業が挙げられています。
国内外での圧倒的なシェアを持っていることや、その事業に高い参入障壁があること、「世界の人口は増加傾向にある」など一過性のものではない大きなトレンドを味方につけていること、そういった点に着目していくと、これからも安定して利益を生み出してくれる企業が見つかるはずであると著者はいいます。そして、そのような企業の株を、時間をかけて、回数を分けて少しずつ買っていきます。株価のどこが天井でどこが底かなんて、どうせ誰も分からないからです。
そして、僕ら個人投資家(特に株について少しでも勉強している人)は、各種指標(ROEとかPERとか)やチャートを分析し、それを根拠に投資判断を下す人が多いと思います。ですがそういった指標やチャートはあくまで過去のデータであって、これから先も安定して利益を出し続けられる企業であるかどうかを判断するには不十分であると言われています。
個人的な意見
・各指標やチャートは銘柄を絞り込む上で結局必要になる。
ここからは僕個人の意見や解釈になります。
企業の本当の価値を判断するのは難しい
まず、著者のこうした投資スタイルは、どちらかと言えばいわゆる「バリュー株」への投資に寄った考え方です。
企業が本来もつ価値を見極め、株価が割安になったところで買い、長期で保有する。この本でも度々取り上げられていますが、アメリカの著名投資家『ウォーレンバフェット』もこの投資スタイルです。
確かに理論の上ではそれが一番正しいようにも思えます。
ただ、僕ら個人投資家が、そこまで企業の本質的な価値を見抜く事ができるでしょうか。
機関投資家やファンドなどとは、まず情報量が圧倒的に違います。実際に企業に訪問したりして生の声を聞いたりもするそうですし、僕ら個人投資家がそれと同じレベルまで企業分析をできるのか疑問です。著者はそのためには会計の知識(できれば証券アナリストの1次試験に合格するレベル)が必要だと言っていますが、それもあくまで「帳簿上の」価値を把握できるだけでしょう。
それに、著者自身も「想定と違った」が故の損切りは行うと言っているくらいですので、個人投資家レベルでは逆にかなり難易度の高い方なのでは、と思ってしまいました。
各指標やチャートは銘柄を絞り込む上で結局必要になる。
著者は「各種指標やチャートの分析は全く意味ないからそんなものを投資や売買の根拠にするな」と痛烈に批判していますが、確かにそれらの分析は完全に未来を予測できるものではありません。
しかし、株式投資を始めようと思ったら、結局それらの知識もどうせ必要になってきますし、そういった指標が読めないと結局企業の分析もまともにできないのが現実だと思います。
それに、国内だけでも、上場している企業は約3700社もある訳ですから、その中から投資先を絞り込むとなった時、結局は過去の業績などを足掛かりに銘柄を探すことになるはずです。そういう意味では、指標の意味やチャートを勉強する事は重要だと僕は考えています。ただし著者の言う通り盲信するのはよくないと思いますが…。
マジでこの本を読むべき人
・資産形成に興味がない人
・資産形成に興味がある人
・株式投資を愛してる人
僕はそもそも株式投資が好きなので個人投資家目線のレビューになってしまいましたが、
「まだ資産形成など何もしていない。というか興味もない」
「そうはいいつつ何となく人生においてお金の事が心配」
「僕はこのままで生涯生きていけるのだろうか」
と言う人にこそ一番この本をおすすめしたいです。
お金とは何か、時間とは、働くとは何か。仕事に埋れてばかりの日々では忘れてしまいがちな原点に振り返れる、そんな一冊なんじゃないかと思います。
皮肉なことに、この本を手に取るのは恐らくほとんどの人が既に投資の経験があったり資産形成に興味がある方で、そう言った人はもう既にこの本でいう「投資家としての思想」をある程度持っている人だと思います。
でも、この本の最大の目的は、全日本人のマインドを「労働者の思想」→「投資家の思想」にすることだと僕は解釈してます。
そうであるとすれば、この本を今からダッシュで買いに行くべきは『投資に興味はないけどお金の事が心配』なそこのあなたです。
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